ザ・レジェンドと呼ばれた男の子 確かに彼はそこにいた
わたしはたまに同級生のやっている喫茶店でお昼を食べることがあります。
いつも食べるのは「新作:まだ名前はないシェフの気まぐれサラダ付き」です。
このランチの名前を聞くたびにわたしが彼に言うのは
「気まぐれとかいって許されるのシェフだけだよ」です。
そっかなーって わかっていないようです。
もうね、文字に起こすまでもないと思いますけど
例えば、外科医の気まぐれ手術に季節のウイルスを添えてとか
有名塾講師が送るこの夏限定きまぐれ入試解説とか
石原良〇のきまぐれ天気予報に季節の台風を添えてとか
あなたにぴったりのお相手を探すきまぐれ結婚相談とか
あげたらきりがないけど、まあだいたい叱られちゃいます。
あまりの気まぐれシェフに対する怒りで、いきなり関係ない話が長くなっちゃいましたが、そのシェフと話してるときに「平野君」の話になったんです。
知ってますよね平野君。
あーそうですか、じゃあちょっと平野君のことを話しますね。
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カリスマ漫画家 レジェンド平野
平野君はすごく漫画を描くのが上手で、子供のころから絵が苦手なわたしはものすごく平野君のことを尊敬していました。
彼の書く漫画は、なんていうか今から考えると全然子供らしくない、大人タッチの絵でした。
彼は教科書とかにも落書きをしたりしてたんですけど、たまにホッチキスで綴じた自作の漫画本を学校にもってきていました。
けっこう厚いやつで、たしか100ページくらいはあったと思います。
で、その本は一冊ずつ「地球最後の日シリーズ」とか「平野家の人々」とかテーマが決まっていて、何話かにわかれているんです。
かなり完成度は高くて、そのホッチキスどめの本を5冊くらい作ってきて、仲の良い子たちに配るんです。
そしてわたしたちはそれを回し読みします。
平野マーケティング
そうすると平野君は学校が終わるころ、アンケート用紙をもってきて、面白かったとか面白くなかったとか、今度書いてほしいモノとかを記入させてアンケート用紙を持って帰ります。するとまた何週間か経つと新しい本ができあがってくるという流れです。
製作→マーケティング→製作という流れですね。
今考えると、とんでもない小学生です。
いまのわたしがブログでもできないことを彼は普通に小5でやっていたんです。
マーケティングを重ねていきますから、当然人気がうなぎのぼりです。
一気に平野君の漫画は顧客の心をわしづかみにし、コアなファンを産んでいきます。
平野漫画禁断症を発症する同級生もでてきます。
平野漫画を読んでないと落ち着かない。平野漫画を読んでからじゃないと給食を食べ始められない。
平野君の漫画を待ち望みすぎて平野君のお家に押し掛ける平野ヲタも出始めます。
翼を折られたレジェンド平野
そのうち平野BOOKSのことは先生の知る所となり、頭の固いお年を召した担任の女性教師は、平野漫画禁止令を出します。
というのも、平野君の漫画がわたしたち5年生の1クラスだけではなく、学校中の生徒おおよそ800名に待ち望まれ、回し読みが回し読みを呼び授業中にも読んじゃう子とかが出てきたからです。
当然生徒たちの間には不満がたまります。
先生たちはなぜ漫画を弾圧するのか。教師による言論弾圧だなどと6年生の頭のいい生徒たちがわたしたちにはよくわからない言葉で職員室で騒いでいたのを覚えています。
先生たちによる平野弾圧は加速し平野漫画狩りが始まります。
平野漫画を持っている人はすみやかに担任教師に提出するよう求められました。
拒否する戦士生徒も少数いましたが、そこはまあ小学生なので言うことを聞いて泣く泣く提出します。
教師たちは戦利品のように教壇に平野漫画を積み上げ、平野漫画ひいては世の中の漫画の悪について語ります。
レジェンド平野はペンを折られたのです。
焚書弾圧への抵抗
先生方も集めるだけでやめておけばよかったのです。
いったん静まりかけた平野漫画への待望熱と生徒たちの不満が爆発してしまう事件が起きます。
学校中から集めた平野漫画は、おそらく100冊を超える量だったと思います。
それを屈強な敵の歩兵体育教師が、あろうことか焼却炉で焼き始めたのです。
焚書です。秦の始皇帝に始まり中世ヨーロッパ、ナチスドイツ、GHQと時の政治家たちが民衆を恐れるあまり行った愚行が、現代の小学校で起こったのです。
これを6年生の活動家達生徒会役員が目撃し、最初は生徒会長以下数名が焼却炉と体育教師を囲んでやめろとか未開人とか騒いでいました。
数名だった生徒たちの周りに、最初は6年生たちが、そして徐々に人数が増えていき、なんだかわからないまま騒ぎにつられて出てきた1.2年生たちまで裏庭に集まる騒ぎとなります。
生徒たちは口々に平野漫画を取り戻せ!平野を守れ!俺たちの平野!などもう混乱の極みです。
先生方はなんとか騒ぎを納めようと必死に怒ったり優しく言い聞かせたりしますが、まったく生徒たちは聞く耳を持ちません。
後の同窓会で、当時の学年主任だった先生がこの時のことを悪夢だったといいました。
あまり思い出したくないようでした。
レジェンド平野の飛翔
この騒ぎが、レジェンド平野をレジェンド平野たらしめる場面の序章だとはだれも気づいていませんでした。
先生方もおさめようのない騒ぎの中、一人の生徒が一段高い物置の屋根の上に現れます。
彼こそが、のちのレジェンド平野である。
彼は叫びます。
「ぼくたちはもう十分戦った!ぼくたちの気持ちは先生方に十分伝わった!クラスに帰ろう!これ以上は悲しくて見ていられない!クラスに帰ろう!」
一瞬で静まり返る生徒たち。
チャンスと見た先生方は生徒を引率してクラスへ引き上げます。
わたしも校舎へ入りながら、焼却炉のほうへ目をやると、数名の先生方が平野BOOKSをレジェンドに渡しているのが見えました。
書きながら当時のことをいろいろと思い出してきましたが、どうしてもその直後のことがあまり思い出せません。
冒頭の気まぐれシェフも同じようにその直後のことが思い出せませんでした。
ただレジェンド平野のあの時のかっこいい姿は網膜に焼き付いて離れません。
彼は翌年の生徒会選挙で生徒会長に圧倒的多数で推薦ののち当選します。
最後まで彼は立候補を固辞していたようですが、対立候補がでないだけでなく先生までも彼に立候補を頼む状況となり、しぶしぶ立候補したようです。
まとめ
レジェンド平野のその後ですが、どういうわけかわたしと大学も同じでしたが、学部がまったく違ったのであまり接点はありませんでした。
大学では医学を志したようでしたが、卒業するとどこか外国にいっちゃったというのがシェフからの情報でした。(シェフは医学部を中退してコックさんになった人です。こっちもちょっと軽くレジェンドな気がしてきました。)
今思い出すと、ほかにも夏でも白のカッパを着て登校していたホワイトレインコート・レジェンドとか、小学生なのに毎日きっちり巻き髪で登校していたカーリーレジェンドとかいましたが、レジェンド平野の前では霞んでしまいます。
彼はレジェンドたちの中のレジェンド、ザ・レジェンドなのです。
みなさんの子供のころにもきっといたはずです。
今夜はレジェンドたちに思いを馳せてワインを一口すすりましょう。
レジェンド平野のその後が知りたい方はこちら。
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